社長がやらなきゃ誰がやるんだ。中小企業の経営者から、こんな言葉をよく聞きます。確かに、社員数が限られた中小企業では、経営者自身が営業に出て、現場の問題に対応し、時には採用面接をこなし、さらには経営戦略まで考えなければならない。朝から晩まで働いても、やるべきことが山積みです。

しかし、そんな日々の中で、ふと気づくことはないでしょうか。売上は上がっているのに会社の方向性が見えない。人は増えたのに組織がまとまらない。忙しすぎて、会社の将来について考える時間がない。本来、経営者として最も大切なことに時間を使えていないという矛盾です。

多くの中小企業の経営者は、トップマネジメントの仕事を自分一人で担わなければならないと考えています。しかし、それは本当に正しいのでしょうか。実は、トップマネジメントの仕事には、一人では担いきれない本質的な特性があるのです。

トップマネジメントの仕事は「一人では担えない」

経営者が日々の業務に追われて本来の仕事ができない。この問題の根本原因は、時間の使い方や優先順位の問題ではありません。最も本質的な問題は、トップマネジメントの仕事の特殊性が理解されていないことにあります。

P.F.ドラッカーは、トップマネジメントの仕事について、次のように述べています。

トップマネジメント以外のマネジメントはすべて、一つの仕事に専念する。(中略)ところが、トップマネジメントはそうではない。トップマネジメントの仕事は多元的である。その仕事の種類は一つではない。複数である。

P.F.ドラッカー『マネジメント〈下〉』

つまり、営業部長や製造部長は一つの職能に専念すればよいのに対し、トップマネジメントは複数の異なる種類の仕事を同時に担わなければならないということです。これは単に仕事量が多いという話ではありません。性質の異なる複数の役割を果たさなければならないという、構造的な特徴なのです。

多くの経営者は、自分が得意な仕事をトップマネジメントの仕事だと受け取りがちです。営業出身の社長は営業を、技術出身の社長は技術を重視します。しかし、それではトップマネジメントの仕事の一部しか果たせていません。そして、一人の人間がすべての役割を担うことは、そもそも不可能なのです。

トップマネジメントの5つの役割と複数で担うべき理由

では、トップマネジメントの仕事とは具体的に何なのでしょうか。ドラッカー教授は、まずトップマネジメントの仕事を判断する原則を示しています。

第一に、もしその仕事をトップ以外の誰かがなしうるとしたら、それはもはやトップマネジメントの仕事ではないということである。
(中略)
第二に、トップマネジメントのメンバーとなった者は、それまで担当していた職能別の仕事や現業の仕事からは完全に手を引かなければならないということである。

P.F.ドラッカー『マネジメント〈下〉』

この原則に基づけば、トップにしかできない仕事とは何でしょうか。ドラッカー教授は、トップマネジメントには次の5つの役割があると述べています。

第一に、組織としてのミッションを考える役割があります。会社は何のために存在するのか、どのような価値を社会に提供するのか。これはトップにしか決められません。

第二に、基準を設定する役割、すなわち組織全体の規範を定める役割、良識機能を果たす役割があります。何が正しく、何が許されないのか。この基準を示すのもトップの仕事です。

第三に、組織をつくりあげ、それを維持する役割があります。どのような組織構造にするのか、どのような人材を育てるのか。組織そのものをデザインする仕事です。

第四に、トップの座にある者だけの仕事として、渉外の役割があります。取引先や金融機関、地域社会との関係構築は、トップ自らが行うべき仕事です。

第五に、重大な危機に際しては自ら出動するという役割、著しく悪化した状況に取り組む役割があります。

これらの仕事は、いずれも重要です。しかし、これらすべてを一人の人間が完璧にこなすことは可能でしょうか。

実は、トップマネジメントの仕事には、一人では担えない3つの特徴があります。第一に、著しく組織化が困難であり、継続的な性格の仕事ではないということです。危機対応のように、必要な時にだけ発生する仕事もあります。第二に、多様な能力を要求するということです。ミッションを考えるには思考力が必要ですが、渉外には対人能力が必要です。第三に、トップマネジメントの仕事は少なくとも四種類の人間であることを要求します。「思考する人間」「行動する人間」「人間的な人間」「代表する人間」の4つです。

一人の人間が、これらすべての資質を兼ね備えることは稀です。だからこそ、ドラッカー教授は次のように述べています。

トップマネジメントの役割が、なすべきこととしては常に存在していながら、仕事としては常に存在しているわけではないという事実と、それが多様な能力と資質を要求しているという事実とが、トップマネジメントの役割の全てを複数の人間に割り当てることを必須にする。

P.F.ドラッカー『マネジメント〈下〉』

つまり、トップマネジメントの仕事は、複数の人間に割り当てなければならないということです。これは大企業だけの話ではありません。むしろ、ドラッカー教授はこう強調しています。

したがって、特に小企業においては、誰が何に責任をもつか、目的と目標は何か、締め切りはいつかを詳細に決めたトップマネジメント用の行程表を作成することが必要である。

P.F.ドラッカー『マネジメント〈下〉』

中小企業こそ、トップマネジメントの仕事を明確に分担し、組織化する必要があるのです。

中小企業でもできる3つのアクション

では、人数が限られ、リソースも少ない中小企業では、どうすればトップマネジメントチームをつくることができるのでしょうか。次の3つのアクションから始めてみてください。

まず、トップマネジメントの5つの仕事のうち、何が手つかずになっているかを確認することです。ミッション、基準設定、組織づくり、渉外、危機対応。これらのうち、どれが十分にできていて、どれができていないのか。自社の現状を客観的に見つめてください。多くの場合、日々の業務に追われて、ミッションや組織づくりが後回しになっているはずです。

次に、自分の得意な仕事と苦手な仕事を認識し、苦手な部分を補える人材を見つけることです。ここで重要なのは、社内の人材だけを考える必要はないということです。もちろん、社内に優秀な幹部がいれば、その人にトップマネジメントの一部を任せることができます。しかし、社外の専門家を活用することも有効な選択肢です。

たとえば、顧問税理士は財務戦略の面でトップマネジメントチームの一員になりえます。社会保険労務士は人事労務や組織づくりの面で貢献できます。経営コンサルタントは戦略立案やミッションの明確化を支援できます。外部取締役や顧問として、経験豊富な経営者を迎えることも一つの方法です。社内のリソースが限られていても、社外の専門家の力を借りることで、トップマネジメントに必要な多様な能力を補完できるのです。

そして、小さくてもトップマネジメントチームをつくり、役割分担と行程表を作成することです。社長自身が担う役割、社内の幹部が担う役割、社外の専門家が担う役割を明確にします。そして、誰が何にいつまでに責任を持つのかを、具体的に文書化してください。たとえば、「来期の経営方針の策定は社長、人事制度の見直しは総務部長と社労士、新規取引先開拓の戦略立案は営業部長とコンサルタントが担当し、3月末までに完了する」といった具合です。

重要なのは、社長が一人ですべてを抱え込まないことです。トップマネジメントの仕事は多元的であり、一人では担えないという前提を受け入れること。そして、社内外のリソースを活用して、小さくてもトップマネジメントチームを組織することです。

トップマネジメントの仕事を適切に分担できれば、社長は本来やるべきこと、つまり組織のミッションを明確にし、将来の方向性を示すことに集中できるようになります。もちろん、これらの重要な仕事においても、社内外の専門家の知見を活用することで、より深い洞察を得ることができます。それこそが、トップが担うべき最も重要な役割なのです。あなたの会社でも、ぜひ今日からトップマネジメントチームづくりを始めてみてください。