「いちいち指示しないと動いてくれない」
「こちらの意図を察してほしいけど、なかなか伝わらない」
「もう少し主体性を持ってくれたら…」

そんなふうに感じたことがある方は多いのではないでしょうか。

とくに中小企業では、人数も限られ、ひとりひとりの判断と行動が、業務のスピードや質に直結します。
だからこそ、「指示待ち」ではなく、「自分で考えて動く人材」が求められるのです。

とはいえ、現場の実態はどうでしょうか。

やることが曖昧だと不安になる、指示がなければ動けない、間違うのが怖くて様子をうかがう――。
部下のそんな姿を見て、「最近の若手は受け身だ」と感じることもあるかもしれません。

しかし、本当にそうでしょうか?

考えて動く力は、最初から持っているかどうかではなく、育てられるかどうかがポイントです。
実は、上司や組織の関わり方ひとつで、社員は「自律的に考えて動ける人材」へと変わっていきます。

このコラムでは、「考えて動けない」の背景を整理しながら、
考えて動く人を育てるための3つの視点と、それを日常業務にどう落とし込むかについてお伝えします。

なぜ考えて動けないのか

「考えて動けない人が多い」と言われるとき、私たちはつい、「本人の能力や意欲の問題」と捉えがちです。

しかし、行動には必ず背景があります。まずは、なぜ考えて動けないのか、その代表的な原因を見ていきましょう。

「考える余地」が与えられていない

意外かもしれませんが、部下が自分で考えて動かないのは、そもそも考える必要がない環境だったからというケースが多くあります。

たとえば、指示が常に細かく、手順ややり方が完全に決められている状態では、「どうすればいいか?」を考える機会はありません。間違いを防ぐために用意されたマニュアルや指示が、結果として「自分で判断する習慣」を奪ってしまうことがあるのです。

指示通りに動くことが正解とされる環境では、考えずに従う方が安全で楽になります。

上司が無意識に「正解」を決めている

上司としては「自分で考えて動いてほしい」と言いつつ、いざ部下が自分なりに考えて動いたときに、「いや、それは違う」とすぐに修正していないでしょうか。

それが何度か続くと、部下はこう感じ始めます。

「結局、正解は上司の頭の中にある」

そして、「考えるよりも、聞いた方が早い」となり、主体性は次第に失われていきます。

上司に悪気はなくても、正解を上から与える文化が続くと、現場は「思考停止」の状態に陥ってしまうのです。

ミスを恐れて動けない

もうひとつの背景は、「間違うことへの過度な恐れ」です。

これまでに「勝手な判断をするな」「何かあったら責任を取れるのか」と言われてきた人ほど、行動の前にブレーキがかかります。特に責任の重い業務や、お客様に直接関わる場面では、「正しくやること」が重視されすぎて、チャレンジや工夫を避ける傾向が強まります。

結果として、「失敗しないこと」が優先され、「考えて動く」どころか、「言われたことしかしない」という状態が常態化します。

「考えて動けない」の背景には、本人だけではなく、組織や上司のつくる環境があります。では、そうした背景を踏まえた上で、どうすれば考えて動く人を育てられるのでしょうか。

次は、そのための3つの視点を紹介していきます。

考えて動く人を育てる3つの視点

必要なのは、単に「考えろ」と言うことではなく、考えるための環境と関わり方を意図的にデザインすることです。

ここでは、部下の「思考力」と「自律性」を引き出すための、実践的な3つの視点を紹介します。

指示ではなく「問い」を投げる

たとえば、部下に仕事を依頼する際、「これをAのやり方で処理しておいて」ではなく、「この処理、どう進めれば効率的だと思う?」と問いかけてみてください。

言いかえると、方法を指示するのではなく、目的(ゴール)を示して方法を考えるように促します。

問いを投げることで、部下は「考えるモード」に入ります。はじめはうまく答えられないかもしれません。それでも、「自分なりに考える」プロセスを繰り返すうちに、徐々に視点や判断力が育っていきます。

重要なのは、「問いっぱなし」にしないことです。

問いに対して返ってきた答えを、「なるほど、そう考えたんだね」と一度受け止める。正否の前に、考えたこと自体を認める姿勢が、思考の習慣を育てます。

裁量を「明確に」渡す

「任せる」と言いながら、実はどこまで任されているのかが不明確、そんな状況では、部下は安心して動けません。

考えて動ける人を育てるには、裁量の範囲を明確に伝えることが大切です。

たとえば、「お客様対応は任せる」と伝えたとしても、

  • 価格交渉はどこまでOKか?
  • 納期変更の判断は自分でしていいのか?
  • 謝罪対応はどう報告すればいいのか?

これらが不明確なままでは、結局「念のため確認しておこう」となり、自律的な判断は育ちません。

「ここまでは自分で判断していい。ここから先は相談してほしい」といった任せ方のラインを具体的に示すことで、初めて部下は安心して考え、動くことができます。

振り返りで「考えたプロセス」を共有する

育成の場で見落とされがちなのが、行動の結果だけでなく考えた過程を振り返ることです。

たとえば、部下がトラブル対応をした場面で、「今回はうまくいったね」で終わらせるのではなく、「どの選択肢を考えて、なぜそれを選んだのか?」を一緒に振り返ってみてください。

プロセスを言語化することで、上司は部下の思考のクセや強み・弱みを把握できますし、部下自身も「自分がどう考えて動いたか」を再認識できます。これは、再現性のある思考力を育てるうえで非常に有効です。

「問いかけ」「裁量の明確化」「思考の振り返り」この3つの視点を意識的に取り入れることで、部下は考えて動くことに少しずつ慣れていきます。

次は、これらの視点を日々の業務にどう落とし込むか、具体的な実践方法をご紹介します。

日常業務に落とし込むには

考えて動く人を育てるための3つの視点、「問いかけ」「裁量の明確化」「思考の振り返り」。これらを実践的な知識として理解するだけでなく、日々の業務の中で無理なく組み込むことが大切です。

ここでは、現場で今日から取り入れられる具体的な方法をご紹介します。

OJTや1on1で「問い」を育てる

OJTや定期的な1on1の場面では、進捗確認や指導に加えて、部下に問いを返す対話のスタイルを意識してみましょう。

たとえば、
「この対応、どう進めた?」
「今後も同じような場面があったら、どんな点を意識する?」
「もし自分がリーダーだったら、どう判断すると思う?」

こうした問いかけを繰り返すことで、部下の中に「考えるスイッチ」が生まれます。

また、問いに答えた内容をフィードバックとして上司が拾い上げることで、「考えていいんだ」「考えると評価される」という感覚が育ちます。

お客様の面談に立ち会うと、一方的に上司が言いたいことを言って終わるというシーンをよく目にします。面談の主役は部下です。全体を通して部下が話す時間を多くするためにも問いはとても有効です。

マニュアルを判断の補助ツールに変える

中小企業では「業務が属人化しないように」と、マニュアル化を進めている会社も多いと思います。

その際、「やり方」を一方的に書き連ねるのではなく、「なぜそうするのか」「どこで判断が必要なのか」を併記することで、マニュアルが考えるための補助ツールに変わります。

たとえば、「Aパターンで対応する」の裏にある前提条件や例外事項を明記しておくことで、マニュアルをなぞるだけでなく、「自分のケースではどうか?」と考えるきっかけが生まれます。

「正解」を記すのではなく、「判断材料」を残す。それが、マニュアルを思考を助ける仕組みに変えるコツです。

「小さな成功体験」を積ませる

人は、自分で考えて動いたことがうまくいくと、自信になります。その積み重ねが、自律的な行動の習慣を育てます。

そのためには、最初から「全部任せる」のではなく、小さな裁量を段階的に渡すことが有効です。

「この顧客対応だけ任せてみよう」
「次のミーティングの議事録を“どうまとめるか”も含めて考えてもらおう」
「この業務、改善点を一つ出してみて」

こうした「やってみる機会」に対して、やりきったことを上司がしっかり承認・評価することで、部下は「自分で考えて動いていいんだ」と実感を得ます。

最初のうちは不完全でも構いません。成功体験は、大小よりも自分で考えたという自覚があるかどうかが大切です。

次は、これまでの内容を踏まえ、考えて動く人を育てることの本当の意味と、リーダーとしての心構えについてまとめていきます。

まとめ

「もっと考えて動いてほしい」
「自分で判断して進めてほしい」

そう願うのは、リーダーとして自然なことです。けれど、その願いが叶わないとき、部下の能力や性格のせいにしてしまっていないでしょうか。

考えて動く力は、最初から備わっているものではなく、育てることができるスキルです。そして、その育成には、上司や組織の関わり方が大きく影響します。

細かく指示を出すだけでは、人は考えることをやめてしまいます。ミスを過度に咎めれば、安全策ばかり選ぶようになります。そして「正解」が常に上司の中にあると思えば、自分なりの判断を避けるようになります。

逆に、「どう思う?」「自分ならどうする?」と問いかけ、考えたことを受け止め、任せる範囲を明確に示し、そのプロセスを一緒に振り返る。そうした積み重ねによって、人は少しずつ、自分の頭で考え、動けるようになっていきます。

考えて動ける人が増えれば、組織のスピードと柔軟性は高まり、リーダーの負担も軽減されます。そして何より、働く本人が、自分の仕事に責任と誇りを持てるようになります。

指示待ちを責めるのではなく、「考えられる環境」をつくることがリーダーの役割です。明日からの育成の中に、ひとつでも「考える力を育てる関わり方」を取り入れてみてください。