「研修を受けさせても、なかなか現場で活かされない」「給与を上げたら、しばらくは頑張るんですが、また元に戻る」「どうすれば社員が自分から動いてくれるようになるのか」——そんな声を、多くの経営者から聞きます。

時間をかけ、お金をかけ、仕組みも整えた。それなのに、社員の動き方はなかなか変わらない。その悩みの根本には、ある見落としがあることがほとんどです。

人が動くための働きかけには、大きく二種類あります。外から与えるか、内側から引き出すか。多くの企業が力を入れているのは前者ですが、本当に人を育てるには、後者に焦点を当てる必要があります

外から与えるだけでは、なぜ人は育たないのか

報酬や評価、または命令や罰則など、外部要因によって人を動かすことを外発的動機づけといいます。わかりやすく言えば、目の前にニンジンをぶら下げて馬を走らせるような状態です。馬が走る理由はニンジンが食べたいからであり、走ること自体を楽しんでいるわけではありません。

給与アップ、昇格、表彰制度——これらはどれも外発的動機づけに当たります。効果がまったくないわけではありません。短期的に行動を促す力はあります。しかし、ニンジンを与え続けなければ馬は走りません。しかも与え続けると効果はどんどん薄れていきます。人も同じで、外部から与えられた報酬には慣れていき、最初ほどの喜びを感じなくなっていく傾向があります。

人材育成に置き換えて考えてみると、どうでしょうか。「資格を取れば手当を出す」「研修を修了したら評価に反映する」——こうした仕組み自体は悪くありません。しかし、それだけを動機に学んだスキルは、報酬がなくなれば使われなくなります。インセンティブが切れた途端に止まる学びは、本当の育ちとは言えません

問題は手段の良し悪しではありません。人材育成の設計が、外発的動機づけにのみ頼っている点にあります。

人が「やりたい」と感じる仕組み

では、外からの働きかけではなく、人の内側から湧き出る意欲——内発的動機付けとは、どのようなものでしょうか。

ニンジンを食べたくて走るのではなく、走ること自体が楽しくて走っている状態です。内発的動機付けは、いわばモチベーションの自家発電のようなものです。外部要因にかかわらず自分の中から湧き上がってくるため、外からの刺激がなくなっても続きます。

内発的動機付けを高める要因は、大きく二つあります。

一つ目は、自己決定感です。自分で決めた、自分が選んだという感覚のことです。人は他人に決められたことをやることに、どこかで抵抗を感じます。逆に、自分で決めたことに対しては責任感が生まれ、壁にぶつかったときも簡単に言い訳できなくなります。

二つ目は、自己有能感です。自分の仕事が誰かの役に立っている、自分が成長しているという実感のことです。人は自分が価値ある存在だと感じたいと思っています。どんなときにその価値を感じるかといえば、やはり何かの役に立ったとき、自分の成長を実感したときではないでしょうか。

この二つの感覚が満たされたとき、人は「やらされている」から「やりたい」に変わります。そして、そのとき初めて学びが深く根づき、行動が変わります。人材育成の効果が上がらないと感じているなら、まず「社員の自己決定感と自己有能感を、育成の設計の中で満たせているか」を問い直すことが必要です。

内発的動機付けを育てる人材育成の設計

自己決定感と自己有能感を育てる人材育成の設計とは、どのようなものでしょうか。三つの視点から整理します。

目標を「与える」から「対話で決める」へ

そもそも目標管理とは、自己目標管理です。社員が自ら考え、自ら目標を設定し、自ら進捗を振り返るものです。上司はあくまでそのサポート役に過ぎません。

ところが多くの企業では、研修テーマや育成目標を経営者や上司が一方的に決め、社員はそれをこなすだけという構造になっています。これでは、どれだけ丁寧に育成計画を立てても、自己決定感は生まれません。

「自分はどのように成長したいか」「そのために今年は何に挑戦するか」——この問いに自分自身で答えることが出発点です。上司の役割は、その答えを引き出し、方向性を確認し、実現を後押しすることです。目標は与えられるものではなく、自分でつくるものです。この認識の転換が、社員の学びへの姿勢をまったく変えます。

成長を「見える化」する仕組みをつくる

自己有能感を育てるために欠かせないのが、成長の実感です。頑張っていても、自分が伸びているかどうかが見えなければ、意欲は続きません。

具体的には、定期的な振り返りの場を設けることです。数ヶ月前の自分と今の自分を比較して、できるようになったことを言語化する機会をつくる。そして、その場で上司や先輩から成長に対するフィードバックを伝えることが、自己有能感を高める強力な手段になります。「以前よりここが変わった」「この仕事を任せてよかった」——そうした言葉は、社員が自分の成長を客観的に確認できる貴重な機会です。成長は見えて初めて、次の意欲につながります。評価面談を年に一度だけ行う組織では、このフィードバックの積み重ねがどうしても生まれにくくなります。

「貢献」を実感できる仕事を任せる

内発的動機付けを高める上で見落とされがちなのが、自分の仕事が誰かの役に立っているという実感です。ルーティン業務に追われ、自分の仕事が会社全体や顧客にどうつながっているのかが見えない状態では、やりがいは生まれません。

そこで重要になるのが、顧客や組織からのフィードバックを社員に届ける仕組みです。「お客様からこんな声が届いた」「あなたの対応が評判になっている」——こうした言葉を伝えることで、社員は自分の仕事が誰かの役に立っているという実感を得られます。経営者やリーダーは、日々の仕事と顧客への貢献を積極的に結びつけて語ることが重要です。成果は常に組織の外にあります。自分の仕事が外の誰かにつながっているというフィードバックが、内発的動機付けを育てます

明日からできる3つのアクション

人材育成の設計を変えるために、すぐに始められる三つのアクションを提示します。

まず、直近の育成目標の設定方法を見直すことです。今、社員の目標を誰がどう決めているかを確認してください。経営者や上司が一方的に決めているなら、次の目標設定から本人との対話を取り入れましょう。「あなたはどうなりたいか」を聞くだけで、育成の質は変わり始めます。

次に、成長を振り返る場を月に一度設けることです。評価面談のような大きな機会でなくてもかまいません。15分でも30分でも、上司と部下が「最近できるようになったこと」「壁にぶつかっていること」を話す場をつくるだけで、自己有能感の醸成につながります。

そして、自分の仕事が誰の役に立っているかを伝える習慣をつけることです。朝礼や日々の会話の中で、社員の仕事と顧客・会社の成果を結びつけて話してください。この一言が、社員の仕事への意味づけを変え、内発的動機付けを育てます。

外から与えるだけの育成は、やがて限界を迎えます。しかし、内側から湧き出る意欲を引き出す設計ができれば、社員は自分で考え、自分で動き、自分で成長していきます。それこそが、本当の意味で人が育つ組織の姿です。

もちろん、自社でこの仕組みをどう設計すればいいか、どこから手をつければいいかわからない、という場合もあるでしょう。私たちは、中小企業の人材育成を長年支援してきた経験から、御社の状況に合った育成の仕組みづくりをお手伝いできます。まずは、現場の課題を一緒に整理することから始めませんか。お気軽にご相談ください。