「うちの社員は、どうも話が通じない」「何度言っても伝わらない」「部下との関係がうまく行かない」——そう感じたことはありませんか?
経営者やリーダーの多くが、部下とのコミュニケーションに悩みを抱えています。報連相が足りない、指示を出したはずなのに動かない、そもそもこちらの意図が伝わっていない——そんな場面が続くと、「やる気がないのでは」「能力に問題があるのでは」と相手に原因を求めがちです。
けれど実は、その“すれ違い”の原因は、自分自身のコミュニケーションにあるかもしれません。
今回は、従業員や部下との意思疎通がうまくいかないと感じたときに見直すべき、5つのリーダー側の典型的な落とし穴を取り上げます。
組織開発の観点からも非常に重要な、「対話の質」を高めるヒントとして、ぜひ参考にしてください。
ケース①「指示が曖昧」

例のプロジェクトの資料を全部揃えてもってきてくれ

あ、はいっ。

例のプロジェクトってどのプロジェクト?
全部ってどこまで全部?すでに渡しているものもあるのに。
もう少し具体的に言ってもらわないとわからない…。
そのくらい判断してやってほしいと思う人も多いかもしれません。しかし、指示の内容を具体化することにさほど労力はかからないのではないでしょうか。そうであれば具体的に指示した方が無駄が無くなります。
上記の例でいうと、どのプロジェクトかを指定した方が部下が間違えて違うプロジェクトの資料を持ってくるという無駄を回避することができます。
必要な資料を特定してあげた方が、部下が必要ない資料まで揃える時間の無駄を回避することができます。
ちょっとした配慮で組織全体の成果がプラスになると考えてみてください。

○○商事のプロジェクトの資料を揃えてたい
事前ヒアリングをまとめたものと企画書は前にもらったから、見積書と先方からの質問事項をまとめたもの、他にも追加で作った資料があればもって来て欲しい。

はい、承知いたしました。
この他、曖昧な言葉の代表例が「ちゃんと」です。ちゃんとという基準は人それぞれ。組織内でその仕事の「ちゃんと」の基準が明確に定義してあるのであれば別ですが、そうで無い場合は、具体的な基準を伝えましょう。
言葉というものは、人それぞれ定義が違うという前提でコミュニケーションをする必要があります。
例えば、頭の中にコップをイメージしてください。どんなコップが浮かびましたか?取っ手のついたコーヒーカップでしょうか。それとも透明なガラスのグラスでしょうか。コーヒーカップが欲しくて部下に「コップもって来て」と言ったら、部下はグラスを持ってくるかもしれません。そうならないためには、組織内で共通言語を作る、マニュアルなどに定義や基準を明記する、その場で具体的に表現する等の工夫が必要です。
ケース②「理由や目的ではなくやり方を伝えている」

今週中にうちのXアカウントでおすすめ商品の紹介を3本、それぞれ18時に投稿して。

はい、わかりました…。

どんな内容にすれば良いんだろう…。
というか、うちの会社、InstagramのアカウントもあるけどなんでXなんだろう?
投稿後

これじゃだめだよ。もっと商品に関するエピソードをもりこまないと。それに紹介している商品ももっと若者向けのものにしてほしかったよ。
今回のケース、「指示が曖昧」にもあてはまります。もっとやってほしいことを具体的に伝えていればもう少し良い会話になったかもしれません。
しかし、もう少しコミュニケーションのレベルを上げるとしたらどうでしょうか。
冒頭の上司の指示はどのような目的のための作業なんでしょうか。実は、新たな顧客層として若者向けに自社の商品をアピールしたいという意図があったとしましょう。そうであれば、まずはその意図(目的)を伝えなければいけません。そうすることで、部下は目的を達成するためにどうすれば良いか、他にも手段は無いかなど、考える様になります。上司であるあなたが思いつかなかった良い方法を提案してくれるかもしれません。

今後、もっと若者にもうちの商品を買ってほしいので、若者向けに商品アピールをして行きたい。
今週中にうちのXアカウントでおすすめ商品の紹介を3本、それぞれ18時に投稿して。

はい、承知いたしました。

若者向けにアピールするなら、XだけじゃなくInstagramにも投稿した方が良いと思います。
それから、ショート動画を作って商品のエピソードなんかも伝えられるといいんじゃないでしょうか。

いいね!
やってみて。
ケース③「部下からの働きかけを無視している」

部長、○○商事のプロジェクトの事前ヒアリングをまとめたものと企画書を社内のクラウドにあげておきました!
後日

○○商事の企画書をメールで送ってくれ

あ、はいっ。

クラウドにあげたって報告したのに…。
部長、クラウドとか苦手だからわからないのかな。
それとも報告が伝わってなかったのかな。
部下から受けた報告や相談など、ちゃんと受け止められていますか?
上記のケースで、なぜ上司はクラウドをみれば済むのに、部下にメールで送れと指示したのでしょうか。理由はいくつか考えられますが、いずれにしても、部下からみると自分が発したコミュニケーションが無視されたと感じてしまいます。こういうことが積み重なると、部下との信頼関係は崩れていくので注意しましょう。
では、上記のケースではどうすればいいのでしょうか。もし、クラウドにあげたという部下からの報告を忘れていた、あるいは認識できていなかったということであれば、まずはその点に改善の余地があります。そうではなく、クラウドに上がっているということは認識しているがメールで送って欲しいと言うことであれば、その理由を伝えましょう。

部長、○○商事のプロジェクトの事前ヒアリングをまとめたものと企画書を社内のクラウドにあげておきました!
後日

○○商事のプロジェクトの企画書を確認したいが、クラウドにあるファイルってどうやって見ればいいんだっけ?

○○商事の企画書を確認したいんだが、クラウドにあるファイルを見る方法がよくわからない…。
わるいけどメールで送ってくれないか。

はい、承知いたしました。
送りますね。
お時間あるときにクラウドの説明もしましょうか?

そうだね。
頼むよ。
ケース②もそうですが、人は理由がわからないことをやることに抵抗を感じます。なぜそれが必要なのかを伝えるようにしましょう。
ケース④「問いかけを無視する」
メールでのやりとり

○○部長
お疲れさまです。
○○商事のプロジェクトの事前ヒアリングをまとめたものと企画書を社内のクラウドにあげておきました。
ご確認よろしくお願いいたします。
後日

お疲れ様です。
○○商事の企画書をメールで送ってください。

クラウドにあげたって報告したのに…。
部長、クラウドとか苦手だからわからないのかな。
それとも報告が伝わってなかったのかな。

○○部長
企画書、添付いたします。
ちなみに先日のメールでクラウドにあげたことご報告させていただいたのですが、もし伝わっていなかったのであれば申し訳ありません。
それとも、クラウドの使い方がわからないと言うことでしたらご説明いたしますので、またご都合の良いタイミングにお声がけください。

お疲れ様です。
企画書ありがとう。

え、それだけ?
こちらの質問にも答えてほしい…。
ケース④はメールやチャットなどのテキストコミュニケーションでのやりとりで起こりがちなコミュニケーションギャップです。
テキストコミュニケーションで、上記の例のように、相手の質問にちゃんと回答せずに返信していないでしょうか。また、複数の質問をしたときに、そのうちの一部にしか回答ができていないということはないでしょうか。
テキストコミュニケーションにかかわらず会話でもそうですが、相手からの問いかけには確実に反応(回答)するようにしないと、相手は無視されたと感じてしまいます。
メールでのやりとり

○○部長
お疲れさまです。
○○商事のプロジェクトの事前ヒアリングをまとめたものと企画書を社内のクラウドにあげておきました。
ご確認よろしくお願いいたします。
後日

お疲れ様です。
○○商事の企画書をメールで送ってください。

クラウドにあげたって報告したのに…。
部長、クラウドとか苦手だからわからないのかな。
それとも報告が伝わってなかったのかな。

○○部長
企画書、添付いたします。
ちなみに先日のメールでクラウドにあげたことご報告させていただいたのですが、もし伝わっていなかったのであれば申し訳ありません。
それとも、クラウドの使い方がわからないと言うことでしたらご説明いたしますので、またご都合の良いタイミングにお声がけください。

お疲れ様です。
企画書ありがとう。
説明不足で申し訳ない。
報告は覚えていたんだけど、クラウドのアクセス方法がまだよくわからなかったのでお願いしました。
明日教えてもらってもいいですか?

お疲れ様です。
承知いたしました。
では明日お声がけさせていただきますね。
ケース⑤「すぐに感情的になる」

何度言ったらわかるんだ!!!!
これじゃだめだ!!!

は、はいっ!
申し訳ありません。

確かに言っていることはわかるんだけど、そんなに大声で怒鳴らなくても良いのに。

職場中に声が響いてて、雰囲気が悪くなる…。
そう言えばお客さんからもクレームがあったな…。
最後はすぐに感情的になって声を荒げてしまうケースです。
職場で怒りを表現することにはなんのメリットもありません。思い当たる人はすぐにやめましょう。
少々きつい言い方かもしれませんが、職場で怒りを表すということは、「自分は怒ることでしか部下を指導できない無能な上司です」と自ら宣言してるのと同じです。
どうしても感情をコントロールできない場合は、アンガーマネジメントなど何らかの対策を講じた方が良いです。
まとめ
以上、今回は部下とのコミュニケーションがうまくいかない上司がやりがちなケースを5つ紹介しました。
自分はどれもあてはまらないと思ったあなた、本当にそうでしょうか。自分では気付いていないだけかもしれません。もし、コミュニケーションがうまくいかないという現実が目の前にあるようでしたら、必ずどれかをやってしまっているという前提で自分の言動を客観的にふり返ってみましょう。