「現場のエースをマネージャーに昇進させたのに、成果が出ない」
「管理職本人が何をすればいいのかわからないと戸惑っている」

これは多くの中小企業で見られる、よくある昇進後のミスマッチです。昇進者本人が悪いわけでもなく、周囲のサポートが足りないわけでもない。問題は、マネジメントの仕事が設計されていないことにあります。

P.F.ドラッカーは著書『マネジメント〈中〉』で、マネジメントの仕事は次の4つの視点から設計しなければならないと書いています。

  1. 果たすべき本来の機能、すなわち仕事そのものがある。
  2. 職務だけでは、マネジメントの人間に期待する貢献を明らかにできない。任務というものがある。
  3. マネジメントの仕事は、上、下、横との関係によって規定される。
  4. マネジメントの仕事は、必要とする情報とその情報の流れにおける彼の位置によって規定される。

この4つの視点をもとに、中小企業における「マネジメントの仕事」をどう設計するかを考えてみましょう。

果たすべき本来の機能――「仕事そのもの」にフォーカスする

ある中小のアパレルチェーンでは、売上・接客成績ともに優秀だったスタッフが、店長に昇進しました。しかし、昇進後半年が経っても店舗全体の数字は伸び悩み、スタッフの離職も続きました。

この原因は、「本来の機能」が本人に伝わっていなかったことにあります。

マネジメント職の本来の仕事は、「現場を回すこと」や「シフトを組むこと」ではなく、組織として成果を出すことです。小売店の店長なら、例えば「顧客満足度の向上」「スタッフのパフォーマンス最大化」が本来果たすべき機能です。

にもかかわらず、「何をやればいいかわからない」となってしまうのは、職務が作業リストとしてのみ伝えられているからではないでしょうか。業務マニュアルや引き継ぎ書ではなく、「この職務で達成すべき成果は何か?」を明示する必要があります。

任務(ミッション)――「期待される貢献」に焦点を当てる

同じ職種でも、組織がその人に何を期待しているかは状況によって異なります。

たとえば、別の支店で昇進した新任店長は、「この店舗を半年以内に黒字化してほしい」という明確な任務を与えられました。その結果、彼はマネジメント経験が浅くても、自ら学び、スタッフの動線や販売戦略を見直し、短期間で売上を回復させました。

ここでのポイントは、「組織や上司が設定する責任=任務」が本人に明確に共有されていたことです。

ドラッカー教授が言う「任務(assignment)」とは、個別状況に応じた期待される貢献です。それを本人に伝えずに「管理職になったんだから自分で考えて」と放任するのでは、迷うのは当然です。むしろ、職務設計の一部として、上司や経営者が任務を明確に設定することが、マネジメントの土台になります。

関係性(上・下・横)――「仕事はひとりでは成立しない」

マネジメント職は、ひとりで完結するものではありません。

自分の上司(たとえばエリアマネージャー)、部下(現場スタッフ)、他部門(商品企画、広報など)との関係性の中で成立する仕事です。

この視点が抜けていると、次のような混乱が起こります:

  • 「上からの指示と、現場の実態がかみ合わない」
  • 「他部門からの問い合わせや依頼の対応に追われる」
  • 「スタッフとの信頼関係が築けず、伝達が機能しない」

このようなつなぎ役としての機能も、マネジメントの仕事の一部です。

職務設計においては、「誰と・何を・どのように連携するか」を明文化することが、現場の混乱防止につながります。 特に中小企業では、組織構造がシンプルな分、「誰とどうつながるか」が曖昧になりがちなので、注意が必要です。

情報の流れ――「情報の流通経路と責任」を設計に含める

マネジメント職は、日々の判断を求められます。そして、その判断の質は「情報の質と流れ」によって大きく左右されます。

ところが、情報の設計がされていないとこうなります:

  • 売上や在庫のデータが上がってこない
  • 顧客の声がスタッフで止まり、マネージャーまで届かない
  • 経営層からの方針が現場に伝わっていない

情報が流れなければ、判断できません。そして、判断できなければ責任も持てません。

したがって、職務設計では「どんな情報を、誰が、どこから得て、誰に渡すか」を明確にすることが不可欠です。

たとえば店舗マネージャーであれば、日報・顧客クレーム・勤怠データ・在庫・売上速報といった情報を「どのタイミングで、どの形式で」把握するかまで落とし込むことが、職務を機能させる鍵となります。

まとめ:役割を与えるのではなく、設計するという視点を

多くの中小企業では、「できる人をとりあえずマネージャーにする」
――これが通用しない時代になってきました。

働き方が多様化し、部下の価値観が分散する中で、マネジメントの仕事はますます複雑になっています。それでも成果を求めるなら、「任せ方」を変えなければなりません。役割を“与える”のではなく、“設計する”――これが、ドラッカー教授からの明確なメッセージです。

彼の提唱する4つの視点――

  1. 成果という本来の機能
  2. 状況に応じた任務(ミッション)
  3. 関係性(上下横)という枠組み
  4. 情報の流れという実務基盤

これらを踏まえてマネジメント職を設計することができれば、昇進の失敗も減り、組織に成果をもたらす真のマネージャーが育つはずです。

「何をどう任せればいいかわからない」と感じたときこそ、職務設計という発想に立ち返ることが、マネジメントの未来を開く第一歩ではないでしょうか。