「うちの社員は責任感がなくて困る」「何度言っても指示待ちのままだ」。こうした悩みを、経営者や管理職の方からよく耳にします。確かに、自分から考えて動こうとしない社員を前にすれば、そう感じるのは無理もないことです。
では、どうすれば社員に責任感をもたせることができるのでしょうか。「責任をもって仕事をしろ」と伝えるだけでは変わらない。インセンティブを設けても長続きしない。そんな経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
実は、P.F.ドラッカーはモチベーションの重要な源泉として「責任」を挙げています。しかし同時に、責任をもたせるためにはいくつかの条件を整えなければならないとも書いています。「責任をもて」と求める前に、経営者やマネジャーが先にやるべきことがあるのです。

「責任」という言葉の誤解を解く
ドラッカー教授の言葉に入る前に、まず「責任」という言葉の意味を整理しておく必要があります。なぜなら、この言葉に対する誤解が、責任とモチベーションの関係を理解しにくくしているからです。
日本語で「責任」という言葉が使われる場面を思い浮かべてみてください。「責任をとって辞める」「責任を追及される」——そこには、ネガティブなニュアンスが漂います。英語に置き換えれば、accountability、つまり「結果に対して問われる」「叱責の対象になる」に近いイメージです。
しかし、ドラッカー教授がマネジメントの文脈で語る「責任」はresponsibilityです。これは「期待に応えること」「信頼に応えること」「自分のこととして主体的に取り組むこと」を意味します。責任とは、重荷を背負うことではなく、信頼と期待を受け取ることです。
「あなたに任せたい」と言われたとき、人はその期待に応えようとする気持ちが湧いてきます。そこには、義務感ではなく、自ら動こうとする内なる力があります。ドラッカー教授が責任をモチベーションの源泉と位置づけたのは、このresponsibilityとしての責任のことなのです。責任とモチベーションが結びつかないように感じるとすれば、それはaccountabilityの意味で「責任」を捉えているからかもしれません。
責任をもたせるための3つの条件
では、どうすれば働く人にresponsibilityとしての責任をもたせることができるのでしょうか。ドラッカー教授は著書で次のように書いています。
仕事において成果をあげるには、仕事に責任をもてなければならない。そのためには(1)仕事を生産的なものにしなければならない、(2)情報をフィードバックしなければならない、(3)学習を継続して行なわなければならない。
P.F.ドラッカー『マネジメント〈上〉』
3つの条件を、それぞれ見ていきましょう。
仕事そのものを生産的にする
第一の条件は、仕事そのものを生産的にすることです。ドラッカー教授はこう書いています。
第一に、仕事を分析し、プロセス化し、管理手段を組み込み、ツールを設計することによって、仕事自体を生産的なものにすることなく、仕事に責任をもたせようとしても無駄である。
P.F.ドラッカー『マネジメント〈上〉』
「主体的に動いてほしい」と求める前に、そもそもその仕事は生産的でしょうか。生産的でない仕事、言いかえると誰がやっても成果が出ない仕事に対して主体的に働いてほしいというのは酷です。
現場でよく見られるのは、仕事の目的が曖昧なまま「とにかくやってくれ」と任されているケースです。誰がどこまで担当し、何をもって完了とするのかが不明確な仕事に対して、人は責任を感じることができません。また、旧来のやり方が慣習として残り、非効率な作業が続いているのに改善されない環境も同様です。
仕事の流れや役割分担が明確になっているか、必要なツールや仕組みが整っているかを確認しなければなりません。仕事そのものを整理し、誰がやっても一定の成果が出るプロセスを設計することが、責任をもたせる土台になります。「社員が動かない」と感じたとき、まず問うべきは社員の意識ではなく、仕事の設計かもしれません。
成果の情報をフィードバックする
第二の条件は、成果の情報をフィードバックすることです。ドラッカー教授はこう書いています。
働く者に責任をもたせるための第二の条件は、成果についての情報をフィードバックすることである。責任をもつためには自己管理が可能でなければならない。そのためには、自らの成果についての情報が不可欠である。
P.F.ドラッカー『マネジメント〈上〉』
自分の仕事がどのような結果につながっているかわからなければ、自己管理も改善もできません。多くの組織では、成果の情報が経営者や管理職のところで止まり、現場の社員には届いていません。「頑張っているのに、それが会社にどう貢献しているかわからない」という状態では、責任をもって仕事をすることは難しいのです。
例えば、営業担当者が商談を重ねても、その結果が数字として自分に届かない、あるいは顧客がどう感じているかを知る手段がない——そうした環境では、自分の仕事が意味を持っているという実感が薄れていきます。
しかし、フィードバックの必要性はむしろ、顧客と直接接しない職種でこそより重要です。経理や総務、製造や品質管理といった部門の社員は、自分の仕事が最終的な成果にどう貢献しているかを、日常の業務の中で実感しにくい立場にあります。例えば、請求書の処理を正確に行っている経理担当者が、それによってキャッシュフローが安定し、会社の経営にどう貢献しているかを知る機会がなければ、仕事はやがて「こなすもの」になっていきます。こうした職種ほど、意識的にフィードバックの仕組みを設けなければ、責任感は育ちません。
フィードバックとは、単に「よかった」「悪かった」を伝えることではありません。自分の行動が組織全体の成果にどうつながっているかを、社員自身が確認できる仕組みをつくることです。月に一度の面談だけでなく、日々の業務の中で成果を確認できる仕組みがあってこそ、社員は自分で考えて動けるようになります。
継続的な学習の機会を与える
第三の条件は、継続的な学習の機会を与えることです。ドラッカー教授はこう書いています。
仕事に成果をもたせるための第三の条件は、継続学習である。
P.F.ドラッカー『マネジメント〈上〉』
なぜ継続学習が責任につながるのでしょうか。責任をもって仕事をするということは、結果に対して自ら考え、改善し続けることでもあります。そのためには、今の自分の能力の範囲を超えて成長し続ける必要があります。人は成長することで、より大きな責任を引き受ける力をもちます。逆に言えば、学びの機会がない環境では、責任を担う力も育ちません。
ところが、多くの組織では「忙しい」を理由に学習の時間が確保されていません。あるいは、研修の場があったとしても、それが日々の仕事と切り離されていて、実務に活かされないままになっています。継続学習で大切なのは、量よりも習慣です。たとえ短い時間であっても、仕事の後に「うまくいったか」「何を改善できるか」を考える時間をもつこと。それだけで、人は少しずつ自分の仕事への責任感を育てていきます。
条件を整えるのはマネジメントの仕事
ここで重要なことがあります。これら3つの条件は、経営者やマネジャーが一方的に設計するだけでは不十分だということです。ドラッカー教授はこう書いています。
しかしこれら三つの条件は、マネジメントの大権、すなわちマネジメントだけが一方的に取り組むべき課題ではない。もちろんマネジメントが取り組み、決定をしなければならない。しかしこれら三つの条件すべてについて、実際に仕事をする者自身が作業に参画しなければならない。
P.F.ドラッカー『マネジメント〈上〉』
プロセスの設計、フィードバックの仕組みづくり、学習の方法——これらを考える作業に、実際に現場で働く人々を巻き込むことが必要です。現場を知らずに設計された仕組みは機能しません。そして何より、自分たちも関わってつくった仕組みだからこそ、人は責任をもってそれを活かそうとします。
さらに、ドラッカー教授は4つ目の重要な要素も挙げています。
さらにまた、働く者に責任をもたせるには、これら三つの条件に加えて、もう一つ必要なものがある。権限を明確にしておくことである。働く者としては、自分にはどこまで任せられているかを知らなければならない。
P.F.ドラッカー『マネジメント〈上〉』
権限の範囲が曖昧なままでは、人はリスクを避け、判断を上に委ねようとします。「任せる」と言いながら、実際にはすべてに承認が必要だったり、決定を覆されたりする環境では、責任感は生まれません。どこまで自分で決めてよいかを明確に示すことが、責任感の土台となるのです。
自社の現状を点検する3つの問い
理屈はわかっても、何から手をつければよいかわからないという方のために、次の3つの問いを自社に照らして考えてみてください。
まず、仕事のプロセスと役割が明確になっているかを確認することです。社員が「何をどの順番でやればよいか」「自分の役割はどこまでか」を迷わずわかる状態になっているでしょうか。もし曖昧な部分があれば、現場の社員も交えて整理することから始めてみてください。
次に、社員が自分の仕事の成果を自分で確認できる仕組みがあるかを見直すことです。売上や顧客の反応、業務の改善結果など、自分の仕事がどんな成果につながっているかを、社員自身が見える形で共有できているでしょうか。情報が経営者だけの手元にあるならば、それを現場に届けることから始めてください。
そして、社員が「ここまでは自分で決めてよい」と理解している権限の範囲を明確にすることです。すべての判断を上に仰がなくてもよい範囲を示すことで、社員は初めて自分ごととして責任をもって動けるようになります。
責任感を高めようと呼びかける前に、責任をもてる環境が整っているかを確認すること。それが、経営者やマネジャーとして最初に取り組むべきことです。3つの条件を一つひとつ丁寧に整えることで、社員は「やらされている仕事」から「自分の仕事」へと意識を変えていきます。そのとき、モチベーションは外から与えるものではなく、内側から湧き出るものになるのです。
ただ、こうした仕組みを自社だけで一から整えることは、簡単ではありません。「何から手をつければよいかわからない」「現状がどの程度整っているか客観的に見てほしい」と感じた方は、ぜひ一度ご相談ください。社員が責任をもって働ける組織の土台をつくるお手伝いをしています。
