年度初めの面談で、部下から言葉にならない不満が漂ってくることはないでしょうか。役割は確実に増えているはずなのに、評価は横ばい。昇給の根拠を聞かれても、うまく説明できない。別の上司が担当している部署では、同じような働きぶりなのに評価がまるで違う。こうしたズレは、年始から年度初めにかけて、最も表面化しやすい時期です。

評価制度を細かく設計し直せば解決するはずだと考えて、評価項目を増やしたり、シートを複雑にしたりする会社もあります。しかし現実には、制度を複雑にすればするほど、運用が重くなり、評価者間のブレは大きくなり、結果として納得感はむしろ下がっていくことが少なくありません。

問題の本質は、評価の技術ではありません。役割の期待、評価の観点、処遇のルールという三つの要素が、ばらばらのまま放置されていることにあります。

ズレの正体は評価の甘辛ではなく、三つの要素がバラバラなこと

評価面談で揉めるとき、多くの上司は自分の伝え方が悪いのではないかと考えます。もっと優しく言えばよかった、もっと具体例を出せばよかった、と振り返る方もいるでしょう。しかし、伝え方を工夫しても、前提がずれていれば納得は生まれません

前提のずれとは何か。それは、役割の期待が明確でない状態で評価をしようとすること、評価項目が抽象的なまま判断を下すこと、そして昇給や役割変更のルールが見えないまま結果だけを伝えることです。

役割が曖昧であれば、評価基準も必ず曖昧になります。たとえば主体性という項目があったとして、それが何を指すのかが共有されていなければ、評価者Aは積極的な発言を重視し、評価者Bは自律的な業務遂行を見て、評価者Cは問題提起の頻度で判断するでしょう。結果、同じ評価シートを使っていても、評価はばらつきます。

評価が曖昧であれば、昇給や役割変更の説明も言葉になりません。なぜこの人が昇給したのか、なぜこの人は据え置きなのか。それを説明するには、何をどう評価したかが明確でなければならず、その評価は何を期待していたかという前提とつながっていなければなりません。

つまり、役割の期待・評価の観点・処遇のルールという三つが接続されていない限り、どれだけ面談の技術を磨いても、納得感は生まれないのです。

納得感を作る三点セット

制度を大きく作り直す必要はありません。まず、役割の期待・評価の観点・処遇のルールという三つの要素を、最低限の形で整え、つなげることです。ここでは、すぐに着手できる実務の型を紹介します。

役割の期待を1枚にする

評価の前に、期待を言語化する必要があります。期待とは、その役割の人が何をできていれば良いのか、どのような状態を目指してほしいのか、という基準です。

たとえば、営業リーダーという役割であれば、売上目標の達成だけでなく、メンバーの育成、顧客との関係構築、社内との調整といった要素が期待されるかもしれません。一方、同じリーダーでも、新規開拓型のチームと既存深耕型のチームでは、期待される貢献の中身は異なるはずです。

この期待を、評価シートとは別に、A4で1枚、箇条書きで3〜5項目程度にまとめます。項目数を絞る理由は、期待が多すぎると焦点がぼやけ、結局何を重視すべきかが伝わらないからです。長い文章は要りません。何ができていれば良いか、を短く並べるだけで十分です。これがあるだけで、後から評価項目を作るときや見直すときに、何を測ろうとしているのかが明確になり、評価者間のブレも大幅に減ります。

期待を書くときの注意点は、抽象的な言葉だけで終わらせないことです。責任感、積極性、協調性といった言葉は、誰にでも当てはまるように見えて、実際には何も伝えていません。代わりに、この役割の人が日常的に行っていてほしい行動や判断の例を、具体的に書くことです。

評価項目を成果とプロセスに分けて、言葉を具体化する

評価項目は、成果とプロセスの両方を見る必要があります。成果だけを見れば、短期的な数字を追うことに偏り、プロセスだけを見れば、努力の量に目が向いて結果が軽視されます。

成果は、自己目標管理制度における個人目標の達成度で測るのが一般的です。売上、利益、納期、品質、顧客満足度など、達成したか/しないかが判断できるように、どんな職種でも数値化・具体化することが原則です。直接的な数値が難しい場合でも、成果物の完成度、納期遵守率、関係者からのフィードバックスコアといった形で、達成判断できる指標を設定します。

プロセスは、行動で書きます。主体性ではなく、指示待ちにならず自分で判断して動いたか。協調性ではなく、他部署と早めに調整し、問題を未然に防いだか。この書き方であれば、評価者が違っても、見るべきポイントは揃います。

評価項目の数は、多くても15項目程度に絞ります。項目が増えすぎれば運用は重くなり、結局すべてが平均点になって差がつかなくなります。本当に見るべきポイントを厳選し、それを深く見るほうが、納得感は高まります。

昇給・役割変更の説明は、ルールと物語の両方で作る

評価制度を処遇と接続する場合、そのつながりをブラックボックスにしたままでは、どれだけ評価を丁寧にしても、納得感は生まれません。昇給や役割変更がどのような考え方で決まるのか、そのルールを可能な範囲で明示する必要があります。

ルールとは、評価結果が処遇にどう影響するか、という接続の仕組みです。たとえば、評価がS・A・B・C・Dの5段階であれば、それぞれがどの程度の昇給率に対応するのか。役割変更は評価だけで決まるのか、それとも空きポジションの有無や本人の希望も加味されるのか。こうした前提を共有しておくことです。

ただし、ルールだけでは冷たく感じられることもあります。そこで必要になるのが、物語です。物語とは、この人がどのような成果を出し、どのようなプロセスで働き、次にどのような成長を期待されているか、という筋道です。

面談では、事実→期待→次の打ち手という順で説明します。まず、評価期間中にどのような事実があったかを具体的に振り返ります。次に、その役割に対してどのような期待をしていたかを再確認します。そのうえで、次にどのような打ち手を取れば、さらに成長できるかを一緒に考えます。この流れがあれば、たとえ評価が期待に届いていなかったとしても、納得感は生まれやすくなります。

明日からできる3つのアクション

制度を整えるといっても、一度にすべてを変える必要はありません。まずは、以下の3つのうちどれか一つから始めてください。

役割の期待を、対象者1ポジションだけ選んでA4 1枚にする。すべての役割を一気に書こうとすると、時間がかかりすぎて挫折します。まず、いま最も説明が難しいと感じているポジションを一つ選び、期待を5項目程度、箇条書きにしてみてください。それだけで、次の評価面談の質は確実に変わります。

評価項目のうち抽象語を2つだけ選び、行動例に置き換える。すべての項目を書き直す必要はありません。まず、最も曖昧だと感じている項目を二つ選び、それを具体的な行動例に落とし込んでください。たとえば、主体性という項目であれば、指示を待たず自分で優先順位を決めて動いたか、問題を見つけたら上司に報告するだけでなく解決策も提案したか、といった形です。

評価者同士で30分、評価の前提をすり合わせる場を作る。評価のブレは、評価者間で基準が揃っていないことから生じます。評価を確定する前に、短い時間でも良いので、評価者全員で集まり、それぞれがどのような観点で判断しているかを共有してください。この場があるだけで、極端に厳しい評価や極端に甘い評価は減り、納得感は大きく高まります。

役割・評価・昇給という三つの要素は、ばらばらに存在しているのではなく、本来はつながっているべきものです。そのつながりを取り戻すことが、納得感を生む第一歩です。制度を大きく変える前に、まずは期待を言語化し、評価の観点を具体化し、処遇のルールを見える化する。その小さな一歩が、組織全体の信頼を作り直すきっかけになります。

もし、自社の状況を整理したい、どこから手をつければ良いか判断が難しい、と感じられた場合は、第三者の視点を入れることも有効です。社内だけで進めようとすると、どうしても現状の延長で考えがちになり、本質的な課題が見えにくくなることがあります。短時間の対話だけでも、優先順位が明確になり、次の一手が見えてくることは少なくありません。必要であれば、お気軽にご相談ください。