新年度に向けた目標設定の季節です。しかし、目標を設定しても、期末になって「これ、達成したかどうか判断できない」「目標と評価がズレている」「そもそも目標を覚えていない」といった問題が起きていないでしょうか。

たとえば、「顧客満足度を向上させる」という目標。一見もっともらしく見えますが、期末にどう判断しますか。「頑張って売上を伸ばす」という目標も同じです。何をもって達成とするのか、基準が見えません。「チーム力を高める」という目標に至っては、評価のしようがありません。

目標が曖昧だと、評価も曖昧になり、納得感が失われます。年度初めの目標設定が、年度末の不満を作る原因になっているのです。では、なぜ目標設定がうまくいかないのでしょうか。

目標が曖昧なのは、設定の「型」がないから

多くの会社で目標設定がうまくいかないのは、上司も部下も「良い目標とは何か」の共通認識を持っていないからです。

よくある誤解があります。努力目標を設定すれば良い、と考えて「頑張る」「取り組む」といった言葉を並べる。しかし、それでは測定できません。高い目標を掲げればモチベーションが上がる、と考えて達成不可能な数字を置く。しかし、現実的でない目標は、むしろ諦めを生みます。目標は多いほど良い、と考えて項目を増やす。しかし、目標が増えすぎると、結局どれも中途半端になり、何も達成できません。

本来、目標とは「何を、どのようにして測定するか」というものさしを決めることです。期末に達成したか/しないかを判断できる基準がなければ、それは目標ではなく、ただの意気込みに過ぎません。目標設定には、明確な「型」が必要です。

評価につながる目標設定の5ステップ

それでは、評価につながる目標を設定するには、どうすれば良いのでしょうか。ここでは、すぐに実務で使える5つのステップを紹介します。

ステップ1:役割の期待から逆算する

目標は、その人の役割の期待から導き出します。役割で期待されている貢献が明確でないと、目標も的外れになります。まず「この役割で、何ができていれば良いか」を確認してください。

この段階で重要なのが、目標には2つのタイプがあることを意識することです。

一つ目は、現在できていないが、やるべき新しい取り組みを目標にするタイプです。新規プロジェクトの立ち上げ、新規事業領域への参入、新システムの導入といった、これまでやっていなかったことに挑戦する目標です。

二つ目は、すでにやっている業務の生産性を上げたり、質をブラッシュアップするタイプです。既存顧客との関係維持、製造現場での品質管理、経理の正確で迅速な処理といった、日常的に行っている業務の質を高める目標です。

多くの人は、一つ目のタイプばかりをイメージしてしまいます。新しいことに挑戦する目標は、確かに分かりやすく、意欲的に見えます。しかし、実は日常業務の質を高める目標のほうが、組織の成果を支えています。営業の成果の多くは、既存顧客からのリピートで支えられています。製造の成果は、日々の品質管理で支えられています。経理の成果は、正確で迅速な処理で支えられています。

目標設定では、新しい取り組みばかりに目を向けるのではなく、すでにやっている業務にフォーカスし、その質を高めることを優先してください。その上で、新しい取り組みを加えるべきです。

ステップ2:測定可能な指標に落とし込む

目標は、測定可能な形にする必要があります。「顧客満足度を向上させる」ではなく、「顧客アンケートのスコアを4.2以上にする」「クレーム件数を前年比20%削減する」といった形です。達成したか/しないかが判断できる基準を設定してください。

ここで役立つのがSMARTという考え方です。良い目標が満たすべき5つの要素を表しています。

  • S(Specific:具体的):何を達成するのかが明確
  • M(Measurable:測定可能):達成度を数値や基準で測れる
  • A(Achievable:達成可能):現実的に達成できる水準
  • R(Relevant:関連性):役割や組織目標とつながっている
  • T(Time-bound:期限):いつまでに達成するかが明確

先ほど曖昧な例として挙げた「顧客満足度を向上させる」という目標を、SMARTに沿って具体化してみましょう。

  • S:既存顧客のリピート率を高める
  • M:リピート率を90%以上にする
  • A:昨年実績は85%なので、施策を強化すれば達成可能
  • R:自分の役割である既存顧客維持に直結
  • T:今期末(3月末)までに

このように、SMARTの視点で目標を見直すだけで、曖昧さは大幅に減ります。最終的な目標は、「既存顧客のリピート率を、今期末(3月末)までに90%以上にする」となり、達成したか/しないかが明確に判断できる形になります。

ここで重要なのが、測定に使う情報の種類です。測定対象としての情報には、定量情報と定性情報があります。

定量情報とは、売上、件数、率、時間など、数値で客観的に測定できる指標です。達成判断が明確で、評価のブレが少ないため、扱いやすいという利点があります。そのため、多くの会社では定量情報ばかりに目が向き、定性情報が置き去りにされがちです。

しかし、実は定性情報の方が重要なことが多いのです。定性情報とは、状態や質を基準にした指標です。どんな業務であっても、成果の質やプロセスの質といった定性的な側面は必ず存在します。たとえば、売上目標(定量)を達成しても、顧客との信頼関係(定性)を損なっていれば、長期的には持続しません。納期を守る(定量)だけでなく、品質基準を満たす(定性)ことが求められます。

定性情報を目標にする際の注意点は、「どういう状態になれば達成か」を具体的に言語化することです。たとえば、「顧客からのクレームをゼロにする」「提案資料の修正回数を2回以内に抑える」「上司の承認を一度で通す資料を作る」といった形です。

定量であっても定性であっても、期末に「達成した/しない」を判断できる基準を持つことが重要です。

ステップ3:背伸びすれば届く、達成可能な水準を設定する

目標の水準設定も重要です。高すぎる目標は、諦めを生みます。低すぎる目標は、成長を止めます。

本人の現状の能力と成長可能性を見極め、「背伸びすれば届く」水準を設定してください。過去の実績、市場環境、利用可能なリソースを考慮し、挑戦的でありながら現実的な水準を見極めます。

この判断には、上司と部下の対話が欠かせません。上司が一方的に高い目標を押しつけても、部下は納得しません。部下が安全な目標を提案しても、成長につながりません。対話の中で、双方が納得できる水準を見つけることです。

ステップ4:目標数は1〜3個に絞る

目標が多すぎると、結局どれも中途半端になります。特に半年単位の目標であれば、勤務時間や仕事の立場によって異なりますが、本当に重要なものを1〜3個に絞り、それぞれに注力できるようにしてください。

この1〜3個の中に、先ほどの2つのタイプをバランスよく配置します。すでにやっている業務の質を高める目標を1〜2個、新しい取り組みの目標を1個、といった形です。すべてを新しい取り組みにしてしまうと、日常業務が疎かになり、結果として組織全体のパフォーマンスが下がります。

ステップ5:中間での進捗確認の場を作る

目標を設定して放置すると、期末に「実は達成できていませんでした」となります。少なくとも月1回は進捗を確認し、必要なら軌道修正する場を作ってください。

この対話の場があることで、目標への意識も高まります。障害が見つかれば早めに対処できます。環境が変われば、目標を見直すこともできます。進捗確認は、目標管理の質を大きく左右します。

まとめ

目標が曖昧であれば、評価も曖昧になります。目標は、成果を評価するための「ものさし」だからです。目標が明確でなければ、何を基準に達成度を判断すればよいかが分からなくなります。

良い目標には、5つの要素が必要です。役割の期待から逆算し、SMARTの視点で測定可能な形にし、背伸びすれば届く水準を設定し、1〜3個に絞り、月1回進捗を確認する。この5つのステップを実践することで、期末に「達成した/しない」を明確に判断できる目標になります。

その中でも、特に意識してほしいのは3つです。

一つ目は、新しい取り組みだけでなく、すでにやっている業務の質を高めることにフォーカスすること。組織の成果の大部分は、日常業務が支えています。

二つ目は、定量情報だけでなく、定性情報を大切にすること。数値は扱いやすいですが、実は成果の質やプロセスの質といった定性的な側面の方が、長期的には重要なことが多いのです。

三つ目は、目標を欲張らず、本当に重要なものに絞ること。目標が多すぎると、結局どれも中途半端になります。

新年度に向けて、まずは既存の目標を5つのステップに照らして見直してみてください。自社の目標設定の型を整理したい、評価とのつながりを見直したい、という場合は、第三者の視点を入れると整理が早く進みます。社内だけで進めようとすると、どうしても現状の延長で考えがちになり、本質的な改善点が見えにくくなることがあります。短時間の対話だけでも、優先順位が明確になり、次の一手が見えてくることは少なくありません。必要であれば、お気軽にご相談ください。