「うちの社員は、言われたことしかしない」
「上司が何を求めているのかわからない」
「忙しいのに成果が見えない」
多くの職場で耳にするこのような言葉には、共通する問題があります。
それは、誰も“貢献”を考えていないということです。
P.F.ドラッカーは『経営者の条件』の中で、次のように述べています。
成果をあげるには、自らの果たすべき貢献を考えなければならない。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』
貢献とは、上司に評価されることでも、与えられた仕事を忠実にこなすことでもありません。
自分の仕事を通じて、組織全体の成果にどのように影響を与えられるかを考え、行動することです。
忙しさや努力に目を向けるのではなく、組織の目的に照らして自分が「何をなすべきか」を考える。この視点を持つことが、成果をあげるための第一歩なのです。
成果ではなく努力に焦点を合わせてしまう人たち
ドラッカー教授はは次のように述べています。
ほとんどの人が下に向かって焦点を合わせる。成果ではなく努力に焦点を合わせる。組織や上司が自分にしてくれるべきことを気にする。そして何よりも、自らがもつべき権限を気にする。その結果、本当の成果をあげられない。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』
この言葉は、今日の多くの職場にもそのままあてはまります。
たとえば、「忙しく働いているのに成果が見えない」「頑張っているのに評価されない」と感じる人が少なくありません。
それは多くの場合、努力が「組織の成果」に結びついていないからです。
私たちは、どうしても「どれだけ頑張ったか」「どれだけ時間を使ったか」に意識を向けがちです。しかし、組織の目的は努力そのものではなく、成果を生み出すことにあります。どれだけ頑張ったかではなく、どんな影響を与えたか、そこに焦点を当てることが重要なのです。
たとえば、報告書を何枚書いたかよりも、その報告が意思決定を助けたかどうか。営業件数の多さよりも、顧客にどれだけ満足を与えたか。人事担当者であれば、制度を整えることよりも、社員が働きやすくなったかどうか。
これらの違いを意識できるかどうかが、成果をあげる人とそうでない人の分かれ道です。
成果に焦点を当てるということは、自分の仕事を、どれだけ努力したかやどれだけ技術を磨いたかではなく、組織全体の成果にどのような影響を与えたかを考えるということです。
努力に焦点を合わせているうちは、視野が自分の手元にとどまります。
一方で、貢献に焦点を合わせると、視野が外に広がり、行動が変わります。成果をあげる人は、自分の仕事を単なる職務ではなく、組織の目的に向けた貢献の手段として見ているのです。
貢献に焦点を合わせるとは外を見ること
ドラッカー教授は次のように述べています。
貢献に焦点を合わせることによって、自らの狭い専門やスキルや部門ではなく、組織全体の成果に注意を向けるようになる。成果が存在する唯一の場所である外の世界に注意を向ける。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』
この言葉が示すように、貢献とは自分の仕事の枠内で完結するものではありません。貢献に焦点を合わせるとは、組織の外にある成果の現場に目を向けることなのです。
多くの人は、日々の業務に追われるうちに「社内でどう見られているか」「上司や同僚との関係がどうか」に意識が向きがちです。
しかし、組織の成果は社内には存在しません。成果は常に、顧客・取引先・地域社会など外の世界にあります。
たとえば、製品開発の担当者であれば、どんなに完成度の高い設計をしても、顧客が価値を感じなければ成果とは言えません。
営業担当者であれば、どれだけ数字をあげたかではなく、自分が売った商品やサービスによってどれだけ顧客が良い変化を起こしたかが重要です。
貢献の基準は、社内の満足ではなく、外に生まれる変化なのです。
ドラッカー教授は、「ほとんどの人が努力や立場に焦点を合わせてしまう」と指摘しました。しかし、貢献に焦点を合わせる人は、「自分の仕事が誰にどんな影響を与えているのか」を問い続けます。
その問いがあることで、行動の方向性が明確になり、結果としてより大きな成果が生まれます。
つまり、貢献に焦点を合わせるとは、「私はこの仕事を通じて何を変えたいのか」「誰をより良くしたいのか」という視点を持つことです。
この視点が、仕事を“作業”から“使命”へと変えていきます。
成果は、外にある。
この当たり前の事実を意識できるかどうかが、成果をあげる人とそうでない人を分けるのです。
やりたいことより、なすべきこと
組織で働くうえで忘れてはならないのは、仕事とは「やりたいこと」ではなく「なすべきこと」を行う場であるということです。
冒頭の引用の続きでは、ドラッカー教授は、組織における一人ひとりの役割を語る中で、次のように述べています。
成果をあげるには、自らの果たすべき貢献を考えなければならない。手元の仕事から顔を上げ目標に目を向ける。組織の成果に影響を与える貢献は何かを問う。そして責任を中心に据える。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』
この言葉のとおり、成果をあげる人は「自分がしたいこと」ではなく、組織の目的の実現に、自分がどう貢献できるかを常に考えています。
多くの職場では、「自分のやりたいことができない」「上司の指示に納得できない」といった不満を耳にします。しかし、組織とは本来、個人の自己実現のために存在するものではありません。ミッション(使命)を果たすために存在するのです。もちろんなすべきことをやりながらも個人の自己実現をすることは可能です。真に成果をあげる人は貢献という組織のニーズと自己実現という個人のニーズをマッチさせています。
したがって、社員一人ひとりが問うべきは「自分は何をやりたいか」ではなく、「この組織の成果のために今、自分は何をなすべきか」という問いです。
たとえば、日々の業務では「この仕事をやるべきか」「どこまで関わるべきか」といった選択の連続があります。そのときに「自分がやりたいかどうか」で判断すると、組織の目的から離れてしまうことがあります。
しかし、「自分がなすべきことは何か」という視点に立てば、組織の成果に資する行動を自ら選び取ることができるのです。
たとえば、チームの中で手が回っていない業務を見つけたとき。「それは自分の仕事ではない」と切り離すのではなく、「組織全体の成果のために、今自分ができる貢献は何か」を考える人が、成果を生み出す人です。
また、会議や意思決定の場でも同じです。「自分の意見を通したい」ではなく、この決定が組織の目的達成にどう影響するかを基準に考えることで、発言や判断の質が変わります。
このように、「なすべきこと」を問うということは、単に与えられた役割をこなすことではなく、常に組織のミッションに照らして、自らの行動を選択する習慣を持つことなのです。
ドラッカー教授は、「責任を中心に据える」と述べています。
それは、やるべきことを誰かに決めてもらうのではなく、自ら考え、引き受けるという意味です。
言い換えれば、自分の仕事を経営の一部として考えるという姿勢が求められるのです。
「やりたいこと」から出発すると、視野が個人の関心にとどまります。しかし「なすべきこと」から出発すれば、視野が組織全体、さらには社会へと広がります。
この視点の転換こそが、組織を前に進める力になります。
組織が果たすべき役割と個人が考えるべき流れ
ここまで見てきたように、成果をあげるためには、社員一人ひとりが「自分は何をなすべきか」を考えることが不可欠です。
しかし、そのためには組織の側にも明確な責任があります。
ドラッカー教授は、貢献に焦点を合わせることで「自らの狭い専門や部門ではなく、組織全体の成果に注意を向けるようになる」と述べました。しかし、もし組織の目的やミッションが曖昧であれば、社員は自分の貢献をどこに向ければよいのか分かりません。
「なすべきこと」を考えられる仕組みを整えることこそ、組織のリーダーや経営者の重要な役割です。
組織が行なうべきことは次のとおりです。
- ミッション(使命):自社が存在する目的は何か
- 事業(手段):そのミッションを実現するために、誰(顧客の定義)に何(顧客価値の定義)を提供するのか
- 成果の定義:事業活動において、どのような状態を成果とみなすのか
- 行動の方向づけ:定義した成果を得るために、社員一人ひとりがどんな行動を取るべきか
ただ漠然と、「なすべきことを考えなさい」「組織の成果に貢献しなさい」と言っても、漠然としすぎていて考えることはできません。
社員一人ひとりのなすべきことは、組織のミッションからスタートし、事業、成果の定義が明確になって初めて見えてきます。
ミッションやビジョンを掲げていても、それが日常業務の判断基準になっていなければ意味がありません。
ミッションを現場の仕事に落とし込む必要があります。
そうすることで、社員は「上司に言われたから」ではなく、「組織の目的のために」行動できるようになります。
そして、個人にとってもこの流れを意識することは重要です。
自分の仕事を、ミッション→事業→成果→行動の流れに照らして見直すことで、「自分の仕事の意味」と「組織の目的」が一本の線でつながるのです。
組織が方向性を示し、個人が自らの貢献を考える、この二つがかみ合ったとき、組織は最も強く、最も成果を生み出す存在になります。
まとめ:貢献に焦点を合わせることが組織を強くする
ドラッカー教授は、「成果をあげるには、自らの果たすべき貢献を考えなければならない」と述べています。この言葉は、単に仕事への姿勢を説いたものではありません。組織と個人の関係を根本から変える視点を示しているのです。
「努力した」「忙しかった」という基準ではなく、「どんな成果に貢献したか」を問う文化がある組織は、自然と前向きなエネルギーが生まれます。社員は上司の指示を待つのではなく、組織の目的を理解し、自ら行動を選択するようになります。その積み重ねが、組織の成果を押し上げ、やがて成果をあげる人が育つ土壌をつくるのです。
一方で、現実には「貢献を考えよう」と言っても、何から始めればよいかわからないという声も少なくありません。
ミッションをどう定義し、どのように現場へ落とし込むのか。
評価や目標管理の仕組みを、どうすれば「貢献」という視点とつなげられるのか。
これらは一朝一夕で整うものではありません。
しかし、方向性さえ定まれば、組織は確実に変わっていきます。重要なのは、人が考えて動く仕組みをつくることです。
弊社では、ドラッカー教授のマネジメント理論をベースに、中小企業が自社らしい貢献型の組織づくり」を実現するための支援を行っています。
「なすべきこと」を考え、行動できる社員を育てるためには、その前提となる明確な評価制度と、マネジメント教育が欠かせません。私たちは、人事評価制度の構築・運用支援や、管理職・リーダー層を対象としたマネジメント研修を通じて、社員一人ひとりが貢献に基づく成果をあげられる仕組みづくりをサポートしています。
組織の方向性と個人の貢献を一致させ、成果を生み出すチームをつくりたいとお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。
