忙しい。しかし成果が出ない。
中小企業では毎日のように耳にする言葉です。
社員は走り回り、経営者は会議に追われ、気づけば一日が終わる。けれどその忙しさが、必ずしも成果につながっているとは限りません。
P.F.ドラッカーは、この問題の核心をつくように述べています。
成果をあげる者は仕事からスタートしない。時間からスタートする。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』
成果を生む人と、ただ忙しいだけで終わる人の差は、才能でも、情熱でも、効率化ツールでもありません。時間そのものへの向き合い方なのです。
なぜ「時間」から始めるべきなのか
導入で触れたように、成果をあげる人は時間からスタートします。
では、なぜ時間がそこまで重要なのでしょうか。
ドラッカーは時間について次のように述べています。
時間こそ真に普遍的な制約条件である。あらゆる仕事が時間の中で行なわれ、時間を費やす。しかしほとんどの人が、この代替できない必要不可欠にして特異な資源を当たり前のように扱う。おそらく時間に対する愛情ある配慮ほど成果をあげている人を際立たせるものはない。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』
この言葉が示すのは、時間がすべての仕事の土台であるという現実です。
スキルを磨くにも、意思決定を行うにも、チームを動かすにも、必ず時間を使います。つまり、どれほど優秀な人であっても、時間を適切に扱えなければ成果は生まれないということです。
さらに時間には、他の資源にはない3つの特徴があります。
- 増やすことができない(24時間は誰にとっても同じ)
- 蓄積できない(使わなかった時間を翌日に回せない)
- 代替できない(他の資源で置き換えることができない)
この3つの性質ゆえに、他の資源とは違う扱いを受けます。
お金が足りなければ借りることができますが、時間は借りられません。人手が足りなければ採用できますが、自分の時間だけは増えません。
ドラッカー教授が時間を最初に見よと説いたのは、時間の使い方が、その人の成果をほぼ決定するからです。
特に中小企業では、多くの経営者やリーダーが「時間に追われる側」になっています。会議、問い合わせ、承認作業、突発対応、メール処理…。こうした仕事に時間を奪われ、本来集中すべき仕事に手が回らないケースは少なくありません。
しかし、時間の使い方を見直し、「成果に直結する時間」を確保できれば、組織のパフォーマンスは劇的に変わります。
時間から始めるという原則は、単なる自己管理のテクニックではなく、成果を生み出すために欠かせないマネジメントの基本なのです。
時間を知る ― 成果をあげる人はまず「記録」する
時間の重要性を理解したとしても、次の課題は「自分の時間の使い方を正しく把握できているか」という点です。ほとんどの人は、自分がどの仕事にどれだけ時間を使っているかを正確に把握していません。ドラッカー教授はこの問題を次のように指摘しています。
われわれはどのように時間を過ごしたかを記憶に頼って知ることはできない。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』
時間の記録をつけてみると、誰もが驚くほど多くの時間を、実際は成果につながらない作業に費やしていることに気づきます。細切れの作業、たび重なる中断、意味を失ったルーティン、対応しなくてもよい雑務。こうした見えない時間のロスによって、本来集中すべき重要な仕事が後回しになり、結果として忙しいのに成果が出ない状態が生まれていきます。
重要なのは、最初から時間を最適化しようとしないことです。まずはありのままの姿を知ることから始めなければ何も改善できません。この点について、ドラッカー教授は次のように述べています。
知識労働者が成果をあげるための第一歩は、実際の時間の使い方を記録することである。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』
時間を記録することで、しているつもりの仕事と実際にしている仕事のギャップが明確になります。これは経営者や管理職に限らず、一般社員にも起こることです。たとえば30分で終わるつもりだった作業が、実際には1時間以上かかっていることも珍しくありません。この誤差が積み重なると、生産性は大きく低下します。
時間の記録は難しいことではなく、特別なツールも必要ありません。紙のメモ、カレンダー、Excelなど、手段は何でも構いません。重要なのは事実を正確に把握する習慣です。事実を知らなければ、改善のスタートラインに立つことすらできません。
もちろん、時間記録のツールを使っても良いです。筆者の場合はToggleというツールを使用していました。
時間の記録は、成果をあげるための最初の実践であり、もっとも確実に効果が表れる習慣なのです。
時間を整理する ― やめるべき仕事を見つける
時間の記録によって実態が見えてきたら、次のステップは時間を取り戻すために何を捨て、何を任せ、何を改善するかを決めることです。ドラッカー教授は、時間を整理するための方法として次の三つをあげています。
- する必要のない仕事を捨てる
- 他の人でもできる仕事は任せる
- 自分でコントロールできる時間の浪費原因を取り除く
まず第一の方法について、ドラッカー教授は次のように述べています。
第一に、する必要のまったくない仕事、何の成果も生まない時間の浪費である仕事を見つけ、捨てることである。すべての仕事について、まったくしなかったならば何が起こるかを考える。何も起こらないが答えであるならば、その仕事は直ちにやめるべきである。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』
多くの組織では、過去の慣習で残っている仕事や、目的を失った作業がそのまま継続されています。誰も読まない報告書、惰性で続けている会議、効果測定のないチェック作業。これらの仕事は続ければ続けるほど時間を奪い、成果にほとんど寄与しません。
第二の方法は次のとおりです。
第二に、他の人間でもやれることは何かを考えることである。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』
任せられる仕事まで自分で抱え込んでいると、本来集中すべき仕事の時間が確保できません。中小企業では特に、経営者や管理職が属人的に仕事を抱え込むことが生産性を下げる大きな原因になりがちです。他の人でもできる仕事は積極的に委譲し、自分が果たすべき成果に直結する仕事に時間を振り向ける必要があります。
そして第三の方法について、ドラッカー教授はこう述べています。
時間管理のための第三の方法は、自らがコントロールし、自らが取り除くことのできる時間浪費の原因を排除することである。人は、他人の時間まで浪費していることがある。
これは自分の行動や習慣の中に潜む時間泥棒を排除することを意味します。判断を先延ばしにする癖、優先順位をつけないまま仕事を始める習慣、不必要な打ち合わせや問い合わせ。こうした自分の行動のクセは、自分の時間だけでなく周囲の時間まで奪うことがあります。
時間の整理は、単なる効率化ではありません。成果を最大化するための戦略的な選択のプロセスです。捨てること、任せること、やめることを明確にしていくことで、初めて成果に直結する仕事に集中できる土台が整います。
時間をまとめる ― 集中こそ成果の源泉
時間を整理できたとしても、それだけでは高い成果にはつながりません。成果を生み出すためには、確保した時間をまとまった形で使うことが不可欠です。断片的な15分や20分では、重要な仕事に必要な思考の深さや質を確保できないからです。
この点について、ドラッカー教授は次のように述べています。
成果をあげるには自由に使える時間を大きくまとめる必要がある。大きくまとまった時間が必要なこと、小さな時間は役に立たないことを認識しなければならない。たとえ一日の四分の一であっても、まとまった時間であれば重要なことをするには十分である。逆にたとえ一日の四分の三であってもその多くが細切れではあまり役に立たない。
したがって時間管理の最終段階は、時間の記録と仕事の整理によってもたらされた自由な時間をまとめることである。
P.F.ドラッカー『経営者の条件』
知識労働の多くは、集中状態に入るまでに準備の時間が必要です。思考の立ち上がりには一定の助走があり、その前に中断が入ってしまうと、再び集中状態に戻るまで時間がかかります。これが頻繁に発生すると、結果として生産性は大きく下がります。
中小企業では、経営者や管理職が絶えず中断される状況がよく見られます。電話、来客、質問、承認依頼、突発的な対応。これらが5分、10分の単位で積み重なると、重要な意思決定や構想力が求められる仕事に向き合う時間が確保できなくなります。
大切なのは、まとまった時間を意図的に確保する仕組みをつくることです。
たとえば午前中は重要な仕事に手をつける時間と決める、一定時間はミーティングを入れない、緊急でない問い合わせはまとめて対応するなどの方法があります。これは個人の工夫だけでなく、組織全体でルールとして整えることで、より効果を発揮します。
また、会議や打ち合わせの扱い方も重要です。会議は短く回数を増やすよりも、目的を明確にし、集中して一度で決める方が時間効率は高まります。散漫な会議が続くことほど、組織の総時間を浪費するものはありません。
時間をまとめることは、成果を生むための大前提です。まとまった時間が確保されていない限り、どれだけ意欲があっても、どれだけ能力が高くても、成果は安定して生まれません。逆に言えば、まとまった時間を守ることができれば、組織の成果は必ず向上します。
中小企業における実践 ― 小さな改善が大きな成果を生む
ここまで見てきたように、時間の記録、整理、そしてまとめるという三つのステップは、どれも特別な仕組みやツールを必要としません。しかし中小企業では、日常の忙しさの中でこうした取り組みが後回しになりがちです。だからこそ、小さく始めて継続することが大切です。
まず実践したいのは、今日からできる時間の見える化です。
たとえば一週間だけでも、自分の時間の使い方を簡単に記録してみることで、すぐに改善できる無駄や非効率が自然と浮き彫りになります。これは経営者や管理職だけでなく、一般社員にも大きな気づきを与えます。
次に行いたいのは、組織全体でやめる仕事を決めるという取り組みです。
多くの職場では、目的を失った書類作成、惰性で続いている会議、形式的なチェック作業などがそのまま残っています。こうした仕事を見直すだけで、驚くほど時間が生まれます。廃止が難しい場合でも、頻度を下げる、フローを簡素化するなど、小さな改善が可能です。
そして、重要なのは集中できる環境づくりです。
中断の多い職場では、どれだけ優秀な人材でも成果を出しにくくなります。経営者や管理職がまとまった時間を確保できるよう、相談や承認依頼のタイミングをルール化する、午前中は原則として中断を避ける、チャット通知の扱いを統一するなど、仕組みとして整えることが効果的です。
こうした取り組みは、単なる効率化ではありません。時間を成果に結びつける経営そのものの改善です。時間の使い方が変われば、意思決定の質が変わり、現場の動きが変わり、最終的には業績の安定と組織の健康に直結します。ドラッカー教授が強調したように、時間はあらゆる資源の中でもっとも制約が大きく、もっとも代替がきかないものです。この資源の扱い方こそが、組織の未来を左右します。
中小企業にとって、時間の改善は最も費用対効果の高い投資です。今日から始められる小さな一歩が、明日の大きな成果につながります。
まとめ
時間はすべての組織に等しく与えられています。しかしその使い方によって、成果をつくる組織と、忙しいだけで前に進まない組織に分かれます。ドラッカー教授が示したように、時間のマネジメントは記録する・整理する・まとめるという三つのステップから成り立ちます。この取り組みは単なる効率化ではなく、仕事の質そのものを変える経営の取り組みです。
時間を記録すれば、無駄や非効率が可視化されます。整理すれば、やめるべき仕事が見えてきます。そして時間をまとめれば、重要な仕事に集中し、成果を出すための土台が整います。これは個人の努力に頼るのではなく、組織として仕組み化することで初めて持続する改善になります。
私たち傍楽(はたらく)合同会社では、ドラッカー教授の理論をベースに、中小企業が時間を「成果につながる資源」として最大限に活かすためのマネジメント研修を提供しています。時間の見える化や仕事の整理、集中できる環境づくりなど、今回の内容を実務で再現できるよう、経営者・管理職の皆さまを実践面で支援しています。
- 忙しいのに成果が上がらない
- 優先順位が曖昧で現場が混乱している
- 重要な仕事に集中する時間が確保できない
と感じているなら、それは時間の扱い方を見直す好機です。
時間の改善は、小さな一歩から始められます。そして、その一歩が組織の成果と未来を大きく変えていきます。私たちはその取り組みを、理論と実践の両面から支援いたします。
